教室ブログ

2026.09.04

くすりのいま

こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。

 

二学期始業式の大雨警報、驚きましたよね。あの日から雨の日が多く続いているので、暑さも和らいできましたね。

ところで、富山県生まれなら「越中とやまのくすり売り」を知っていますよね。 富山といえばくすりで、くすりといえば富山だった・・・時代がありました。

でも、皆さん“いまの”くすりについてどれだけご存知でしょうか。せっかく(?)富山に生まれたのなら、売薬だけでなく今のくすり業界がどうなっているか知っておきませんか?

今回は、9月で行事も多く勉強も難しくなるので、教科から離れて、くすりのいまのお話をしましょう。

 

◆くすりは二種類

 

くすりは大きく二種類あります。医師が処方する薬としない薬の二種類です。

処方とは、医師が患者の病状に応じて、適切な薬を薬剤師に指示することです。病院に行って診察を受けると、処方せんという紙をもらいますよね。それをもって薬局に行けばもらえるくすりが、処方薬です。

もう一方が、医師が処方しない薬なのですが、それにも大きく二つあります。いわゆる市販薬と、配置販売薬です。

市販薬は近所のドラッグストアとかスーパーの一部とかで買えるくすりのことで、OTC薬ともいいます。OTCはOver The Counterの頭文字で「レジ越しにすぐ買える薬」というイメージです。

もう一つの配置販売薬こそ、「越中とやまのくすり」つまり売薬です。通常、自宅に薬箱があって、使った分だけ支払うシステムなので「先用後利」といったりもします。でも最近は自宅に薬箱がないお宅が多くなり、配置販売薬は厳しい状況ではあります。

 

もともと村にはくすりもなくお医者さんもいませんでした。庄屋など財力のあるお宅にはくすりをおいてありましたが、それも偽薬つまりニセモノのくすりが多く、あまり役に立っていなかったようです。その中で江戸時代に配置販売薬が出回るようになり、品質がよかったため、ようやくくすりが信用されるようになっていきました。

今でこそくすりと医療は一体のようにイメージするかもしれませんが、それぞれ別の経緯で発達してきたのです。

 

◆医薬分業という考え方

 

とはいえ今や医療にはくすりが欠かせないかと思います。なのになぜ、病院内で薬を受け取ることがほとんどできず、外の薬局に行ってお金も別に支払わなくてはいけないという、面倒くさいことをしなくてはいけないのでしょうか。

 

これには「医薬分業」という考え方が基本にあるためです。

医薬分業の考え方は意外に古く、約800年前の中世ヨーロッパ(シチリア王国)で始まったとされています。

当時(13世紀)のヨーロッパでは毒殺が日常的に起こっていました。宮廷の権力争いの中で、食事に毒を仕込む事件が頻発していたのです。こうした「宮廷医が毒を盛る」という危険に強い危機感を抱いた王・フリードリヒ2世は、「病気を診る人と薬を扱う人は分けるべきだ」と考えました。

この「薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師、薬剤師という専門家が分担して行う」という医薬分業の考え方を、世界で初めて法に導入したフリードリヒ2世は、「医薬分業の祖」と呼ばれています。

 

その医薬分業の概念が日本に入ってくるのは明治時代です。

当時最も進んでいたドイツの医療制度を輸入するため、明治政府はドイツ陸軍軍医少佐のL.ミュルレルら2人の医師を教師として招へいしました。ミュルレルは日本の医療場面で無茶苦茶な調剤が行われていることに驚いて、「医療は医師と薬剤師が両輪となって成り立つもの」と政府に強く進言しました。これを受けて、1874(明治7)年に制定された『医制』に「医師タル者ハ自ラ薬ヲ鬻(ヒサ)クコトヲ禁ス」と記されることになり、医薬分業の考え方が導入されました。

そして1889(明治22)年に薬品営業並薬品取扱規則(通称「薬律」)が公布され、薬舗は薬局に、薬舗主(薬舗の開業者)は薬剤師となり、いよいよ日本にも医薬分業が訪れた、かのようにみえました。ところが、薬律の立法過程で医師が猛烈に反対していたため、薬律の附則で医師の自己調剤が認められることになっていました。そのため患者が処方せんを受け取る習慣が根付かず、医薬分業の有名無実化が続きました。

それまで医師が薬を多く出すとそれだけ収入が増えるしくみになっていました。医療機関は薬剤費で収入を得ていたので、「薬漬け医療」と呼ばれていました。

一方の薬局はというと、医療機関にリベートを支払うなどが横行していて、店舗では市販薬(OTC薬)・化粧品・衛生雑貨などを扱う小売業でした。

そのため当時は「医師は薬を売り、薬局は雑貨を売る」と揶揄されていました。

 

◆病院完結型から地域完結型へ

 

日本で本格的に医薬分業が始まったのは、戦後からずいぶん経った1974(昭和49)年です。

この年に中央社会保険医療協議会(中医協)が処方せん料をそれまでの5倍に引き上げたのが始まりでした。また当時の厚生省が薬価差縮小や薬漬け医療からの脱却を目指して推進策をとったことも、大きな要因となりました。

1980~90年代には、既存の街の薬局ではなく、調剤を専門に扱う調剤薬局が病院や診療所の前に進出してきました。調剤薬局の多くは、もともと製薬企業で営業を担当していた人(今でいう医療情報担当者:MR)が医師との人脈を利用して独立・開業したと言われています。現在の大手調剤薬局チェーンの企業のほとんどはこの時代に生まれました。

今や薬局数は1974年の2万6000軒から2017年度は5万9138軒と急激に伸び、医薬分業率も1974年の0.6%から2017年度には72.8%に上がっています。

 

医薬分業元年(1974年)前の医療は病院完結型だったのに対し、今の医療は病院・診療所や薬局が連携する地域完結型になっています。つまり医師が全ての医療を行うのではなく、看護師・薬剤師・ケアマネジャー・作業療法士等が連携するチーム医療へと変わりつつあります。

また超高齢社会になる日本では、複数の疾患を抱え、疾患ごとに医療機関にかかるいわゆる多科受診が増えています。他科受診になると、服用している医薬品が重複していたり相互作用で思わぬ副作用が出たりといった危険性があります。

そこで国は社会保障制度の再構築を目指しました。(1)医療・介護は病院完結型から地域完結型へ切り替えるのに加え、(2)医療/介護/住まい/生活支援/予防を一体的に提供する地域包括ケアシステムを構築し、健康増進の充実や医療機能の分化・連携を図る――という理想を目指したのです。ここでの「地域」は、概ね30分以内に駆けつけられる中学校区エリアを想定しているようです。

 

◆くすりの今後

 

でも、医薬分業の理想はわかるものの、患者にとっては病院で薬をもらう方が楽だし、処方せんをもらって薬局に行って会計も別というのは手間ですよね。ましてや病院の近隣で処方せんを受け入れる門前薬局は、実質上は病院完結型と変わりません。

薬局が「処方せん通りに調剤をし、患者に医薬品を提供して終わり」という業務に留まっていては、薬剤師が関わる意味あるの?と言われかねません。だから医薬品交付後も、服薬状況や副作用発現の有無、残薬の有無などをフォローし、処方医と情報を共有して最善の対応を行ってこそ、医薬分業の意義があるのでは、と言われています。

例えば、処方せんの約2.3%で医師に問い合わせる「疑義照会」が行われていますが、その結果90%近くが処方変更されているそうです。これは薬剤師と医師が連携した成果とも言え、推計で570億円の経済効果があるとされています。

さらに、患者に調剤業務の見える化を図ったり、調剤の効果を数値で示したりなども課題とされています。

 

一方で、急速な高齢化とともに医療費が増加していて、これに伴って病院や診療所の混雑、医療費の個人負担増など、さまざまな課題が浮上しています。そのため日常の軽い体調不良については自宅で適切に対処し、病院を必要なときだけ利用する「賢い医療利用」が推奨されています。

同時に、自分の健康に対する意識の高まりから、食事や運動、休息といった日常的な健康管理のほか、市販薬や配置薬を用いることによって未病の段階で対処することが注目されています。

 

このように、処方箋なしに自分で薬や健康食品を選んで対処する行動全般を「セルフメディケーション」といいます。

セルフメディケーションは厚生労働省も推奨しています。医薬品を購入する際、パッケージに「セルフメディケーション税制対象」と表示されている商品を選び、そのレシートや領収書を保管しておくと、確定申告の際に提出すれば税金が還付されるという「セルフメディケーション税制」も利用することができます。

 

越中とやまのくすり、つまり配置販売薬は、このセルフメディケーションのはしりともいえるでしょう。江戸時代とは状況がかなり変わっているとはいえ、「自分自身の健康は自分で管理する」ために、くすりを正しく使っていきたいですね。

 

 

【参考】

藤田道男「図解入門業界研究 薬局業界の動向とカラクリがよーくわかる本 調剤ビジネスの終焉 第2版」秀和システム、2019.3

医薬分業とは 薬剤師向け | 日本薬剤師会オフィシャルWebサイト

セルフメディケーションを正しく実践する基礎知識|薬剤師

 

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