教室ブログ

2025.12.08

僕らはみんな共生している(後編)

こんにちは、Wam藤の木校です。
前回「僕らはみんな共生している(前編)」を書きました。今回はその後編です。

前編では主にヒトと微生物との共生をみてきました。
もちろん、異生物同士が共生しているのはヒトだけではありません。多くの生物に異生物との共生が明らかになってきています。

例えば、植物。植物もまた、驚くほどの微生物と共生しています。
植物の約80%(陸上植物に限れば9割以上)の根には「菌根菌」という菌類(カビ)が共生しています。植物の根は土壌中に細かく張っていますが、菌根菌の菌糸体は土壌中をさらに細かく伸長し、土壌栄養分を吸収して植物に供給しています。大部分の土壌は窒素に乏しいのですが、菌根菌が窒素をアンモニウムに変換(窒素固定)し、リン酸の吸収も促進することによって、植物のニーズを満たしています。代わりに植物は光合成を行い、光合成の産物である糖や炭素を菌根菌に供給しているのです。
菌根菌が共生したから、植物は陸上生活が可能になりました。森林に肥料やりも水やりも必要ないのは、菌根菌のおかげなのです。

植物の根は菌根菌などの菌類(カビ)が主役ですが、葉に共生するのは主に細菌(真正細菌、いわゆるバクテリア)です。葉の環境は温度/湿度/紫外線照射が頻繫に変化して豊富な栄養素にありつけないため、細菌以外は生きにくいようです。そういった細菌が共生して、植物を病原体から護っているのです。

次は、昆虫。
昆虫の中でもエンドウヒゲナガアブラムシという虫は、植物の害虫なので最もよく研究されてきました。そこでわかったことは、その昆虫とブクネラ属菌という細菌とが、昆虫と細菌の典型例な必須共生である、ということです。
必須共生とは、片方がいないと生きられない共生の形態です。多くの場合、共生は任意で、二つのパートナーの一方が他方なしで済ませることができるのですが、必須共生の場合は片方がいないと生きられません。必須共生は進化の過程で確立されたようで、特に昆虫では一般的のようです。
必須共生なので、この細菌はこの昆虫の体内でしか生きられません。というのも、この細菌は単独で生きることを可能にしていた多くの遺伝子を、進化の過程で失ったようなのです。そのためこの細菌は、アブラムシの成長に必須なアミノ酸の合成はできるのですが、他のものは合成しません。一方、宿主であるアブラムシは、細菌にエネルギー/炭素/窒素を供給しています。まさに相利共生、必須共生ですね。

昆虫の10~12%は、「細胞内共生生物」を持っていて、その共生生物によって昆虫が持っていない性質をもたらし、昆虫には近寄ることができない環境でも適応できるようになっているようです。
細胞内共生といえば、真核生物の細胞内でエネルギーを供給する細胞小器官であるミトコンドリアが有名です。ミトコンドリアも、もともとは別の細菌だったのに、細胞内共生によって細胞小器官になりました。また植物の細胞は、ミトコンドリアが既に共生しているのに、さらにシアノバクテリアが共生し、植物に特徴的な葉緑体になったとされています。しかも最近の研究では、ミトコンドリア自体の中にも細菌が検出されたそうです。

様々な生物と共生する細菌ですが、どうやら細菌は互いに話し合っているようです。
細菌は複雑な分子を環境中に放出すると同時に、細胞表面あるいは細胞質内に分布するセンサーによって自分たちの密度を見積もることができるようです。こうして細菌は、いわば化学言語を使って周囲にいる同種菌の数を測定することができるのです(クオラムセンシングといいます)。
細菌の用いる言語には違いがあるので、話が通じない場合もありますが、二つ以上の言語を話す細菌もあります。異なるやり方で異なるシグナルに反応し、まったく同一の細菌(妹)や近縁の細菌(従妹)を認識することができるようです。
このように細菌は、自身の振る舞いを調整することによって、あたかも一つの多細胞生物であるかのように行動できているようです。

前編で、口の中にいる細菌群としてバイオフィルムを紹介しましたが、大部分の細菌はこの(口の中以外の)バイオフィルムの中で生活しています。天然の(口の中以外の)バイオフィルムでは、一種類の細菌しか含まない場合もあればいくつかの細菌を含む場合もあり、しかも細菌だけでなく菌類(かビ)やアメーバも含むことがあります。
バイオフィルム内の微生物同士は緊密に結びつくので、外部の攻撃(消毒薬など)に対して強い抵抗性をもちます。これは、同じ細菌を栄養が豊富な液体培地で培養したものからは得られない性質です。そのため細菌は、掃除や徹底的な除菌によって消滅したようにみえても、バイオフィルムの形で生き延び、何年か後に再び出現することがあるので、医療分野(抗生物質の耐性など)/工業分野(錆の発生に関連して起こる腐食など)/農産物加工分野など、さまざまな分野で問題になっているようです。

ヒト単体にとって、非常に多様性のある微生物叢(そう)は健康のしるしである一方、多様性のない微生物叢(そう)は栄養不良や病気の兆候であるといえます。しかもそれは単体に限ったことではありません。
世界保健機関(WHO)などは、最近の感染症流行を踏まえて、「ヒトの健康」と「動物の健康」と「環境の管理」を、もっと協力して研究する必要があると訴えています。というのも、ヒト新興感染症の75%は動物由来で、種間で伝播している可能性が高いので、動物の健康とヒトの健康の分野との連携が必要になっていることが一つ。また、生態系の変化(森林伐採、都市化)や地球温暖化が、新しい病気の出現の原因になっているというのがもう一つです。
生物が、病気とくに媒介動物によって伝播する病気に対し、拡散を防ぐことができているのは、多様性があるからこそなのです。
これまで医師と獣医師と環境問題研究者は、それぞれの分野で別々に取り組んできました。でもこれからは、この領域で協力して取り組んでいく必要がある、と世界保健機関は訴えています。
これまで別々に行われてきた、ヒトの健康/動物の健康/食料安全保障/環境モニタリングに対する監視ネットワークのあいだを、今後は国際的な連携も含めて促進する必要があるといいます。近年、自国中心主義の国が増えている気がしますが、環境の危機が叫ばれているときだからこそ、国際的な連携が必要ではないでしょうか。

【参考】
パスカル・コサール著、矢倉英隆訳(2019)「これからの微生物学 マイクロバイオータからCRISPRへ」みすず書房
小川眞著(1987)「作物と土をつなぐ共生微生物 菌根の生態学」農文協

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