教室ブログ

2025.11.06

僕らはみんな共生している(前編)

こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。

8月に「細菌スケールの風景」を書きました。今回はその続きですが、長くなったので前編後編に分け、今回は前編。

 

「細菌スケールの風景」では、目に見えないほど小さな生物は目に見える動物/植物よりももっと多様だ、ということを書きました。今回は、それら微生物が単体として多様であるだけでなく、異なる生物同士が協力し合って生きている、つまり共生している、ということが、生物学の発展によって近年だんだんと明らかになっている、という話です。

 

共生とは、二種の生物同士が一緒に生活するという生活様式のことです。共生は、広い意味では寄生(一方の生物がもう一方の生物から栄養などを一方的に受け取って生活すること)や捕食-被食関係(捕食共生)すら含まれますが、ここでは「相利共生」、つまり二種の生物が互いに利益を享受しながら生活することに限ってお話しします。

共生の例としてわりと有名なのが、クマノミ(という魚)とイソギンチャク(海で岩の上などに定着している動物)です。クマノミはイソギンチャクの触手によって捕食者から守られる一方、クマノミはイソギンチャクを捕食する魚を追い払い、またイソギンチャクの周りを泳ぐことで新鮮な海水を供給しています。

このクマノミとイソギンチャクのように、互いに利益をもたらし合う関係が相利共生ですが、それは特殊なことではなく、すべての生物は細菌(あるいは細菌と微生物の共同体)との共生に依存しているのです。

 

 

そんな共生関係がヒトと他の生物とも作れるといいのにな、と思ったあなた。実はヒトもまた、他の生物と共生関係を築いているのです。

実はヒトは、ヒトの目で見えない大きさ(人間の肉眼の限界は0.1~0.2mm)の微生物と共生しています。

一つの環境に存在する微生物種の集合のことを「微生物叢(そう)(別名マイクロバイオータ)」といいますが、ヒトの身体の各部には微生物叢(そう)があるのです。

「えー、身体の中に他の生物がいるなんて何かヤだ」と思う人もいるかもしれませんが、幸い(?)目には見えませんし、生まれたときから共生していますし、むしろ微生物が共生しているからこそヒトは健康を維持できているのです。裏返せば、ヒトの健康は多様な微生物の協力のおかげで成り立っているとも言えるのです。

ヒトの微生物叢(そう)は、腸内が最も有名ですが、他にも皮膚や口腔・咽頭腔(つまり口の中)などに存在しています。そう言われると何となくわかる人もいるのではないでしょうか。

 

微生物との関係で対照的なのが大便と小便です。

「腸内フローラ」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、腸内には多様な種類の細菌がまるでお花畑(=フローラ)のように多く生きて生活しています。腸内の細菌が分泌する酵素は、糖などの食物を分解するだけでなく、植物性の残渣(ざんさ、残りかすのこと)を発酵させます。この発酵によって、植物性の残渣は腸の上皮細胞に吸収できるようになるのです。

腸での吸収を経て排出された大便は、一般に80%が水分、残る20%のうち3分の1が食べカス/3分の1がはがれた腸粘膜/そして3分の1が生きた腸内細菌と言われています。全部食べカスと思っていたら、全然違うんですね。

一方で小便の場合、豊富な微生物の助けを借りている腸とは異なり、腎臓でできる尿は無菌です。毛細血管からろ過された原尿は再吸収され残りが尿になりますが、そのあいだ菌に触れることはありません。体外に出ると尿は酸化などを経て臭いを発するようになりますが、体内にある限り、小便は決して「汚く」ないのです。

同じ便でも、大便と小便で微生物との関わりが全然違うのですね。

 

また口腔内(口の中)も細菌の宝庫です。

食事直後は歯の周りなど少し粘りがあるように感じるかと思いますが、食べカスでなければそれは「バイオフィルム」という微生物叢(そう)です。

バイオフィルムは、多くの微生物が一つの表面に接着して増殖し、特別な構造をもち全面に広がっているものです。微生物は、ヒトにとっても口腔をきれいにしてくれているありがたい存在なのですが、放っておくと増殖する上なかなか取れないので、ブラシでゴシゴシして取り除く必要があります。食事後の歯磨きがいかに大切かがわかりますね。

 

微生物叢(そう)はヒトの行動にも影響を与えているとさえ言われています。

マウスで行われた研究によると、微生物叢(そう)は不安感などの感情にも影響を与えているようなのです。このことから、腸は「第二の脳」ではないか、と考えられ始めています。

 

これで前編は終了です。次は後編をお送りします。

 

【参考】

パスカル・コサール著、矢倉英隆訳(2019)「これからの微生物学 マイクロバイオータからCRISPRへ」みすず書房

うんちは、カラダからの大事なお“便”り|ウンチから、腸内環境がわかる!|大鵬薬品

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