こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。
いま何かと話題のアメリカ・トランプ大統領ですが、彼は2019年、アメリカがグリーンランドの買収を検討している、と報じられていました。はぁ?グリーンランド?てゆか人住んでんの?と思いましたが、おそらく立ち消えたのでしょう、以降はあまり聞かなくなりました。
でも、グリーンランドってどこのものなのでしょう。その前に、グリーンランドとはどこで、そこにどういう人が住んでいるのでしょう。今回はグリーンランドの話です。
グリーンランドは北米大陸の北東、カナダの北東にあります。地図で見るとやたらでかい島ですが、メルカトル図法は極地に近いほど実際の面積比率より拡大表示されるので、実際はそれほどでもありません。例えばオーストラリア大陸に比べると、メルカトル図法の地図上はグリーンランドの方がやたら大きくみえますが、実際の大きさは3分の1くらいだそうです。
グリーンランドは世界最大の島で(それより大きいのは大陸)、世界最北の陸地。80%が氷に覆われているため、氷の重さで島の中央部の地面は海面より300 mも低いのだそうです。氷の厚さは沿岸近くで1,500 m、内陸部で3,000 mに達していますが、現在予想よりも早い速度で氷床の融解が進んでいるようです。もしグリーンランドの氷床が全て融けたとすると、世界中の海面が現在よりも7.2 mほど上昇するといわれています。そうなれば日本の沿岸部はほぼ壊滅ですね・・・
人口は3万足らずだそうで、富山県と比較すると、富山市の人口が40万、立山町の人口が2.6万なので、グリーンランドは立山町より少し多いくらいの国、ということになるでしょう。
氷に覆われていない残り20%のところに町や居住地があり、ほとんどの人は南部の漁業中心の居住区に住んでいます。
形式上はデンマーク王国の一部ではあるものの、自治政府が置かれて広範な自治が認められているようです。
グリーンランドのもともとの先住民はカナダなどと同じイヌイットなのですが、「赤毛のエイリーク」という人によってヨーロッパ人に発見されます。982年頃、殺人を犯したエイリークが3年間国外追放とされ、その間グリーンランドの海岸を探索することになったと言われています。以降グリーンランドは、当時西ヨーロッパ沿海部を侵略した武装集団・ヴァイキングの支配下に置かれます。まぁヴァイキングといっても、略奪が専業ではなく、農業や漁業を営む移住者だったようですが。
グリーンランドの名前の由来は、エイリークがアイスランドの島民に移住を勧めるために、多くの入植希望者が現れるよう魅力的な名前をつけて「緑の島」と呼んだためとされています。でもグリーンランドこそ、アイスランド(「氷の島」)よりもずっと「氷の島」で、樹木などはないそうです(アイスランドには樹木アリ)。だから「グリーンランドとアイスランドは名前が逆ではないか」という人もいます。ちなみに当時、勧誘されて移住したのはわずか十数人だったとか。
ただ、発見した西暦800~1300年頃は中世の温暖期で、その頃は実際には、氷河に覆われていない南部海岸地帯は緑にあふれていたという話もあるので、本当のところはよくわかりません。その後移住者は酪農などを営なむようになっていきました。
その後、ヨーロッパ情勢が変化します。イスラム勢力の進出によって地中海貿易が衰えてしまい、ヨーロッパにアフリカの象牙が入ってこなくなったのです。そこで仕方なく、グリーンランドの海にいるセイウチの牙を代用品として求めるようになりました。
特産のセイウチの牙を運ぶ船を保護するため、ノルウェーの大型帆船を提供してもらう必要が出てきました。そのためグリーンランドは1262年、ノルウェーの支配を受けるようになったのです。その後、ノルウェーがデンマークと同盟を結んだので、グリーンランドはスライドするように(当時の強国だった)デンマークの領土となりました(1397年)。
でも、ヨーロッパとアフリカとの貿易が再開すると、グリーンランドは見捨てられることとなり、1410年からは大型帆船がやってこなくなってしまいます。その頃から気候も悪化し始め、残されたヴァイキングの子孫たちは次第に数を減らしていきました。
やがて、ヴァイキングの後にやってきてグリーンランド北部に住んでいたカラーリットという民族が南下してきて、たびたび争うようになりました。そして少数のヴァイキングの子孫たちは敗れ去り、ほとんど絶滅してしまいました。
その後またヨーロッパ情勢が変わり、12世紀頃から勢力を伸ばしてきた北欧商人の都市同盟「ハンザ同盟」が、ノルウェー沖漁場から外国船を締め出してしまったため、困ったイングランドやバスクの漁民は、新たな漁場を求めて、アイスランドやグリーンランド沿岸へと出て行かざるを得なくなりました。
そして16世紀になって「再発見」され、デンマークによる探検、入植、キリスト教の布教が行われていきます。
1905年、ノルウェー独立に伴いグリーンランドはどの国に帰属するのかと問題になりましたが、第一次世界大戦後に国際連盟の調停でデンマーク領と確定し、1979年にはグリーンランド自治政府が設置され、現在に至ります。
でも冒頭に書いたように、アメリカがグリーンランドの買収を検討していると報じられたのはなぜでしょうか。こんな自然環境が厳しく、逆に言うと平和なグリーンランドが、なぜ各国の買収の的とされるのでしょう。
まず第二次世界大戦後の冷戦下で、北極海を隔ててソ連と相対する位置にあるところから戦略上の重要度が増したことがあります。そこでデンマークがNATOに加盟したのを機に、1951年にアメリカとデンマークの間でグリーンランド防衛協定が成立し、アメリカ軍がグリーンランドに基地を設置しました。そうすることにより、アメリカ軍はグリーンランドから北極海を睨み、アメリカ本土に飛んでくる大陸間弾道ミサイルを検知するレーダーを装備して、防衛拠点としているのです。
ところが近年、温暖化で氷が溶けて資源開発がしやすくなったので、グリーンランド自治政府は飛行場の拡充などをデンマーク政府に働きかけたのですが、デンマーク政府は開発に消極的でした。仕方なく中国に協力を求めると、中国は乗り気で投資を約束したのです。慌てたデンマークも急きょ出資を決めたのですが、自治政府の不信感は強まっていて、自治政府はむしろ中国との関係を深めています。
もし北米に親中国国家が誕生したらたまらない! グリーンランドが仮に独立して親中国国家となったら、アメリカは大きな打撃となります。それが、2019年のトランプのグリーランド買収発言の背景だったのです。
余談。
1492年、スペインの支援を受けたコロンブスが、西回りでアジアに向かうべく大西洋を横断しアメリカ大陸を「発見」。これを契機として、多くの航海者がヨーロッパからアメリカ大陸へと渡り、スペインを中心としたアメリカ大陸の植民地化が進みました。だからアメリカやカナダ以外の中南米は今でもスペイン語が母語の国が多いですし、コロンブスが初めに到達したサン・サルバドル島などは今も東インド諸島と呼ばれています。
コロンブスのアメリカ大陸発見までは、アメリカ大陸の住人はアジアからベーリング海峡を横断し移住してきたモンゴロイドのみと思われてきました。でも、グリーンランドにヴァイキングが移住し始めたのは10世紀頃。ノルウェー領になったのは1262年。その後ヴァイキングの子孫は絶滅するものの、グリーンランドまでは確実に、コロンブスより500年ほども前に白人は「発見」していたのです。
もしヴァイキングの子孫が絶滅せずにイヌイットと混血していれば、アメリカは今と全く違う国になっていたかもしれません。
なお伝説では、エイリークの息子がグリーンランドの南方に「伝説の地・ヴィンランド」を発見したとされています。ヴィンランドがどこにあったのか(あるのか)今も謎のままなのですが、まさに「ヴィンランド・サガ」ですね。
ちなみに、北極圏に住む先住民全体を指す一般的な名称として「エスキモー」がありますが、「生肉を食べる輩」という意味があり、非文明的で差別的な他称であることから、現在では使用が避けられることが多いようです。なおイヌイットは、主にアラスカ北部からグリーンランドにかけての地域に住む人々を指し、エスキモーの一部です。
以上、グリーンランドの地理や歴史を中心に見てきました。
多くない人口で、平和な世界最大の島・グリーンランドが、世界の強国同士がにらみ合う拠点となったり、ましてや買収の対象になったりしていることは悲しくなりますね。
はるか遠い国、という点ではその通りですが、だからといって無関心でいるのではなく、頭に留めておくだけで、また異なる見方ができるかもしれませんよ。
【参考】