教室ブログ

2025.08.04

細菌スケールの風景

こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。

 

生物、と言われたら、何を思い浮かべますか。魚、パンダ、昆虫などの動物、木や草などの植物。それ以外は?・・・はっきりとはわからないけれど、それ以外の生物もいるよね、というのが一般の認識ではないでしょうか。

それ以外・・・そう、カビや細菌などの微生物がいます。でも、動物と植物は何となくわかるけど、微生物の世界はよくわかりません。ということで、今回は微生物の世界を見ていきましょう。

 

 

19世紀の初めまでは生物を動物界と植物界の二界に分ける考え方「二界説」でした。1866年、原生生物界を加えた「三界説」が提唱されます。その後、現在の高校生物の教科書には主に「五界説」(動物界/植物界/菌界/原生生物界/モネラ界(原核生物界))が載っています。でも五界説が最新というわけではなく、その後も次々と新しい分類体系が提唱されているようです。

 

動物界と植物界はわかりますよね。動物界は口があり有機物を摂食して分解し吸収する、運動能力と感覚器官をもつ多細胞生物。植物界は光合成によりエネルギーを得る、運動しない多細胞生物です。

残りの菌界/原生生物界/モネラ界は全て微生物・・・同じに見えますが、何が違うのでしょう。

 

では、比較的スケールの大きな微生物からいきましょう。

まずは菌界。菌類とも呼ばれる真核生物です。その真核生物というのは、DNA(遺伝情報)が納められているはっきりした核がある細胞からできている生物で、動物や植物も真核生物です。菌類は、その細胞から消化酵素を分泌して、体外で有機物を分解し吸収する、自然界の分解者で、実は高等な生物なんです。

菌類で代表的なのが真菌(しんきん)で、真菌のうち生活環の大部分を単細胞で過ごすものを「酵母」、菌糸を伸ばして生育するものを「糸状菌(カビ)」と呼びます(糸状菌は多細胞)。糸状菌(カビ)のうち、胞子を拡散するために子実体と呼ばれる大きな構造体を形成すると「キノコ」と呼ばれます。

 

次に原生生物界。主に水中で生活する生物群であり、大部分が顕微鏡でしか見えない真核生物ですが、一方で50メートルを超える昆布のような海藻類も原生生物なので、非常に多彩です。マラリア原虫など、動物に寄生して生活するものも原生生物です。多くの原生生物は単細胞ですが、ボルボックスのように単純な多細胞構造を持つものもいます。

原生生物界にはユーグレナ類/アメーバ類/粘菌類/藻類などがいます。ユーグレナとはミドリムシの別名で、光合成を行う単細胞生物で運動性があります。アメーバは不定形の単細胞生物で、水中を遊泳することはできませんが、仮足を伸ばして細胞質を流し込むことによって這うように移動します。

粘菌は、倒木や落ち葉がたくさん積もった腐葉土などに棲んでいて、アメーバ様の細胞やそれらが集合して粘液物質を出す、アメーバ動物の仲間とされています。オスとメスのような性があり、子実体をつくって胞子を飛ばします。

昆布やアサクサノリなどの藻類は、一見植物ですが、身体の構造や生活環、細胞壁の成分まで大きく異なります。藻類のうち、プチプチの食感と適度な塩味がくせになる「海ぶどう」ですが、葉・茎・根に相当する部位を備えているのに、実は単細胞、1つの細胞でやってのけています。

 

最後にモネラ界。モネラ界は真正細菌とアーキア(古細菌)に分かれます。ですが、研究が進むにつれて、真正細菌とアーキア(古細菌)が、系統的に極めて異なっていることが示され、今やモネラ界の概念は破綻・解体へと向かっているようです。

なお「モネラ」はギリシャ語の「monos」(一つ、単一)が語源で、単細胞生物を表しています。ちなみに細菌はバクテリアとも呼びますが、「バクテリア」は古代ギリシャ語の「小さな杖」が語源です。これは、顕微鏡で観察された細菌の形状が棒状に見えたことに由来します。

真正細菌を顕微鏡で見ると、棒状の桿菌(かんきん)や球状の球菌が観察できます。桿菌にも、球菌が少し伸びた単桿菌から、非常に長い長桿菌までいろいろあります。球菌は集合状態により分けられ、単独の単球菌/二個つながった双球菌/四個の球菌がセットになった4連球菌/多数の球菌が連なった連鎖球菌/塊を形成するブドウ球菌などです。

でも真正細菌の分類は見た目ではなく、細胞表層の構造の違いによって、グラム陽性菌とグラム陰性菌に大別されます。グラム染色という染色法により青く染まるグラム陽性菌は、細胞膜の上に厚い細胞壁をもっています。細胞壁は分厚くて堅いけれどもスカスカなので、ここでは<木枠型>としましょう。あたかも木枠に囲まれているので、乾燥や摩擦には強いけれど、浸み込むタイプの薬剤、例えば抗生物質や抗菌剤などには弱い傾向があります。

一方グラム陰性菌は、細胞膜が二枚あり、その間に非常に薄い細胞壁をもっています。ここでは<寝袋型>としましょう。あたかも寝袋に覆われているので、浸み込むタイプの薬剤、例えば抗生物質が効きにくい傾向がありますが、グラム陽性菌と逆で、乾燥や摩擦には弱いです。

 

アーキア(古細菌)は細菌と何も変わらないようにみえますが、細胞を被っている細胞膜が違います。アーキア以外の生物が細胞膜の成分としてもっている脂質はエステル型(-COO-)で、比較的ゆるい結合なのですが、アーキアはエーテル型(-O-)で強い結合なのです。

細胞膜が強いためか、アーキアの生息域は超高温や飽和塩水、極端な酸・アルカリなどの極限環境があり、例えば温泉や熱水鉱床、石油鉱床など、他の生物が生きられないところでも生きていけます。でもそういった特殊な環境だけでなく、一般的な海洋環境や土壌にもいます。

アーキアには超好熱菌/高度好塩菌/メタン生成菌の三種類がいて、細菌や真核生物とは代謝/生体構成物質/遺伝などの生化学的性質で大きく異なっています。

アーキアは古細菌とも呼ばれるように、細菌より原初的な生物と思われていました。ところが研究が進むにつれ、生命の進化の系統樹上、まず細菌とアーキアに分かれ、次にアーケア側の枝の延長に、我々真核生物があるようです。真正細菌の方が原初的だったなんて驚きですね。

そのため今は「五界説」ではなく、「界」より上のカテゴリーの「ドメイン」を設定し、「3ドメイン説」が主流になっています。「3ドメイン説」では、真核生物を全て「真核生物ドメイン」にまとめ、原核生物(モネラ界)を「真正細菌ドメイン」「古細菌ドメイン」に分けています。

 

ところで・・・微生物といえば何か忘れているような気がしませんか?

そう、ウイルスです。数年前に猛威を振って生活に大きな影響を与えたコロナウイルスや、インフルエンザウイルスなど。しかしウイルスは生物ではありません。

ウイルスが生物でないとされる理由は次の三点です。

1.自己複製能力の欠如(独自で自己複製を行えず、宿主細胞の助けが必要)

2.エネルギー代謝を行わない(自らエネルギーを生成したり利用したりせず、代謝機能がない)

3.細胞構造を持たない(細胞膜や細胞小器官がなく、生命体の基本単位である細胞を持たない)

でも、ウイルスは遺伝情報を伝えるDNAかRNAのどちらかを持ち自己増殖することから、研究者の中でも意見が割れています。生物だとする研究者もいれば、生物ではないとする研究者もいますし、生物でもないし非生物でもない中間的な存在だとする人もいます。

進化の過程でいえば、なにもないところからウイルスが誕生したとは考えにくく、細胞からDNAかRNAだけが分離して生まれたのがウイルスではないか、とも言われています。

なおウイルスのうち、真正細菌や古細菌に感染して複製するウイルスをファージ(正式にはバクテリオファージ(細胞を食べる))と呼びます。

 

 

さて、微生物といってもいろいろいるのはわかったかと思いますが、それぞれの大きさを比べてみましょう。

今は通常、1m(メートル)を単位としていますが、細菌(真正細菌)は1μm(マイクロメートル)くらいなので、いっそ1/10 0000(10万分の1)の大きさに縮んでみましょう。10万分の1ということは、1mが1/10 0000m(メートル)=10μm(マイクロメートル)になります。

1m が10μmに縮んだので、20cm×150cm(=0.2×1.5m)だった私は2×15μmになります。

私(2×15μm)からみると、桿菌(かんきん)は10×30cmくらいの、ずんぐりした大きなぬいぐるみのようにみえます。一方球菌は0.8μmなので、手のひらに乗る大きめの球体(径8cm)のようです。逆に私(2×15μm)は、桿菌より倍くらい細長く見えているでしょうから、長桿菌(ちょうかんきん)として分類されるでしょう。

私(2×15μm)は服を着ているので、<寝袋型>の「グラム陰性菌」に分類されるでしょう。細菌には、裸のままだけど木枠に囲まれている<木枠型>の「グラム陽性菌」もいます。木枠に囲まれているので乾燥や摩擦には強いけど、薬剤には弱いです。対して私「グラム陰性菌」は、薬剤には強いけど乾燥や摩擦には弱いです。

 

一方アーキア(古細菌)は、大きさこそ細菌(真正細菌)と似ていますが、がっちりとした鎧(よろい)を身にまとっていて、見るからに頑丈そうです。火事の現場や極寒の地でも生きていけそうです。

 

菌類はどうでしょう。酵母は私(2×15μm)からみると、消防車の全長くらいの大きな球に見えます。大きなものだと路線バスの全長くらい(5~10μm)。細菌に比べると酵母がいかに大きいかがわかります。

糸状菌(カビ)はどうでしょう。私(2×15μm)からみると、菌糸の太さでも私と同じくらいか両手で抱えるくらいですが、それがえんえんどこまでも伸びていきます。胞子も、径20 cmのバスケットボールくらいの球(実際は約2μm)になります。さすが真核生物ですね。キノコ(子実体)に至っては実際の大きさでも肉眼で見えるくらいですから、私(2×15μm)からみると、小さいものでも100mくらい(実際は1mm)、普通でおよそ数十km(実際は数十cm)にも及ぶ、バカでかい構造物になります。

 

原生生物界はどうでしょう。ユーグレナ(ミドリムシ)は1×5mの小さめのボートのように見えます(実際は10×50μm)。アメーバは形が一定でなく大きさも種類によって様々ですが、およそマンション10階程度の大きさ(実際は0.3mmくらい)なので、襲われたら一巻の終わりですね。

 

最後にウイルス。私(2×15μm)からみると、ウイルスは1cm程度です(実際は0.1μm)。新型コロナウイルスは5mm~2cmくらい(実際は0.050~0.2 μm)、インフルエンザウイルスは8mm~1.2cmくらい(実際は0.08~0.12 μm)なので、私(2×15μm)からとってもほとんどハエと同じくらいわずらわしいヤツです。

 

ドメイン 真核か原核か 単細胞か否か (例)
古細菌ドメイン モネラ界 アーケア(古細菌) 原核生物 単細胞 高度好熱菌
真正細菌ドメイン モネラ界 真正細菌 原核生物 単細胞 乳酸菌、大腸菌
真核生物ドメイン 原生生物界 真核生物 単細胞または多細胞 ミドリムシ、海藻
菌界

 

真核生物 多細胞または単細胞 糸状菌(カビ)、酵母
植物界

 

真核生物 多細胞 コケ、双子葉植物
動物界

 

真核生物 多細胞 昆虫(節足動物)、哺乳類
3ドメイン説 五界説

 

以上、微生物の大きさを比べてきました。目に見えない微生物とはいえ、多様な生物がいることがわかったかと思います。

感染など死に至らしめることもあるので、人によっては微生物=悪魔のように思う人もいるかもしれません。逆に、パンなどの発酵食品やアルコールを生み出してくれる役に立つ存在だ、と思う人もいるでしょう。ですが、目に見えない微生物を含め、私たちは多様な生き物に囲まれて生きている、逆に言うと多様な生き物に囲まれているからこそ生きていける、ということができるでしょう。

いま「生物が多様であることが大切」と言われます。それは、いろいろいると楽しいからとか、有用だからとかではなく、気持ち悪いとか怖いとかではなく、多様でないと人間が生きていけないからです。微生物も生物です。微生物を通して、改めて多様な生物が存在することを認識し、また感謝し、守っていくにはどうするか考えていってもらえればと思います。

 

【参考資料】

中島春紫「トコトンやさしい微生物の本」日刊工業新聞社

浜本哲郎・浜本牧子「Q&Aで学ぶやさしい微生物学」講談社

「粘菌」の世界へ、ようこそ 大森山で不思議な“いきもの”を探そう!

この記事をシェア

  • facebook
  • twitter
  • instagram

\入力はカンタン30秒

フリーダイヤル® 0120-20-7733 受付時間:10:00~22:00(年中無休)