教室ブログ

2025.07.03

むかしの星空

こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。

 

夜空を見上げると、あらゆる方向に星が輝いていますね。そしてほとんどが同じように動いている、というか回っています。でも同じように動いていない星があるのです。

マンガ「チ。―地球の運動について―」の中で解説されていますが、代表的なものは月と、惑星と、そして太陽です。なお惑星は漢字が示す通り「まど(惑)う星」で、英語「planet(プラネット)」も語源はギリシア語の「プラネテス」、「さまよう者」「放浪者」などの意です。いわば月や太陽や惑星は、夜空というキャンバスの上をイレギュラーに動く存在なのです。でも、ランダムというわけではありません。

人類が誕生したそのときから星空はありました。今は星空といえばギリシア神話の星座ですが、昔からギリシア神話の星座であったわけではありません。ではむかしの人は、イレギュラーな星を除いた星空をどう見ていたのでしょうか。

 

 

空というキャンバス――これを天球と呼びます――にある星々の位置を見分けるのに便利なのが星座です。星座は、夜空に見える星の並びを人間が意味のある形に例えたもので、古来さまざまな地域・文化や時代に応じて、いろいろなグループ化の方法や星座名が用いられてきました。(とはいえ、現在の天文学では星同士の見かけの並びに意味は全くありません。)

その中でも今につながる星座の原型を作ったのは、古代メソポタミア文明です。紀元前3000年ごろ、シュメール人やアッカド人が、近くにある星と星とを結んで動物や道具、神様などに見立てたのが始まりではないかとされています。

メソポタミアに伝わる神話では、天地が作られたとき、空を三つに分け、そこに星座が作られたとされます。1年を12ヶ月とし、それぞれの月に対し3つずつ、合計36個の星座が作られました。つまり暦(こよみ)を先に作って、そこに星座を配置したのです。

その後、夜の飾りとして月の神様をおき、次いで月の旅する道と同じ道を旅するものとして太陽や惑星をおいた、とされます。この頃からイレギュラーな星は区別されていたのですね。

 

ところで、天球はだいたい1日で同じ位置に戻ります。1日24時間に360°ですから、1時間に約15°回るわけです(正確には23時間56分4秒で360°)。

では、太陽は天球の上でどのように動いているのでしょうか。「いやいや何言ってるんだ、昼に星空は見えないよ。」その通り、太陽は明るすぎて他の星を見えなくさせています。でも太陽が明るすぎない(月レベル?)と仮定すると、天球にはいつも星空が輝いていて、同じように回っている(と考えることができる)のです。

その太陽も、毎日同じ方向に同じコースを回っているようにみえます。この、太陽が天球の上を移動していくコースを黄道(こうどう)といいます。

黄道は一見、天球に張り付いているようにみえます。でも黄道は変わらなくても、太陽の動きは他の星の動きより少し遅いのです。少しずつ遅くなって、一ヶ月に約30°もずれてしまいます。そのおかげで、前にあったところの星や、それをつなげた星座が見えるようになるのです。

 

空には無数の星、星座があるわけですが(現在88の星座があるとされ、すべての星がどこかの星座に属しているとされています)、その中で黄道にある星は限られます。その黄道帯にある12個の星座のことを「黄道十二星座」といいます。

なお初め、黄道帯にある星座は13個だったのですが、そうすると暦に不都合が生じます。そのため、へびつかい座をあえて十二星座から外したとされています。

これが現在の星占いで使われる星座で、おひつじ座/おうし座/ふたご座/かに座/しし座/おとめ座/てんびん座/さそり座/(へびづかい座/)いて座/やぎ座/みずがめ座/うお座 です。黄道12星座は、惑星の予言を手伝う神々とされてきました。

 

時代が変わって紀元前15~8世紀。その頃に繁栄した地中海のフェニキア人は、航海のために星の知識を必要としていました。そこでメソポタミアの星座の知識を活用したのです。そして紀元前5世紀ごろにギリシアに伝わり、ギリシア神話と結び付き、今のギリシア神話の星座になったのです。

 

でもギリシア神話の星座は、もとはメソポタミアの神話のため、やや無理やりなところもあります。

例えば・・・

・おうし座

メソポタミアでは牛が家畜で、人間にたいへん役に立っていたので、富の象徴として尊敬されました。そして「天のおうし」と言われるようになりました。

一方ギリシア神話では、神様ゼウスが牛に変身し、エウロパという人をクレタ島まで連れて行ったときの牛です。その後、その場所はエウロパにちなみ、ヨーロッパと呼ばれました。

・しし座

メソポタミアではライオンは「百獣の王」とも呼ばれ、どの国でも尊敬されていました。王という言葉から「王国」をイメージし、国の将来を表すとして重要視されました。

一方ギリシア神話のしし座は、ネメアの森で人や家畜を襲っていたライオンです。ヘラクレスが退治しようと戦いましたが、非常に苦労してやっと退治されました。

・さそり座

さそりは砂漠地帯によく見られる生物で、その尾に毒があります。メソポタミアでは愛の女神イシュハラを表しています。サソリの毒に権力や人を守る力があると信じられていたので、尊敬されました。

一方ギリシア神話では、おごり高ぶって神様をないがしろにしたオリオンに対し、神様がサソリを差し向け、一撃で命を奪ったとされています。だから空にさそり座が昇ってくるとオリオン座が沈んでいく、という関係性まで星座のストーリーに組み込んであります。

・うお座

うお座はひときわ風変わりな星座で、ひもで縛った魚を描いています。うお座は秋の四辺形を取り囲むように暗い星が並んでいて、その秋の四辺形はメソポタミアでは耕作地、あるいはバビロン市を表していました。その四角い耕作地を取り囲み、魚とつばめをつなぐひもは、ティグリス川とユーフラテス川を表しています。ひもが一つになるのは川が合流するからです。

一方ギリシア神話では、怪物に襲われた美の女神:アフロディーテが、その子と一緒に魚に変身して逃げました。その際、離ればなれにならないようにひもを結んで逃げた姿です。

 

このようにギリシア神話での星座は、メソポタミアの星座を踏まえながらも大きく違ったものになっています。メソポタミアはおよそ星空に神(単独)を描いていたのに対し、ギリシアでは大きなストーリー仕立てになっていたようですね。

 

そして紀元前2世紀になり、エジプトのアレクサンドリアで星の目録を作成し48個の星座にまとめたのが、古代ローマの学者・プトレマイオスです。なお、マンガ「チ。―地球の運動について―」はそのずっと後の物語で、プトレマイオスの宇宙観がベースとなっていた世界を描いています(そういうセリフがいくつかあります)。ちなみにプトレマイオスも「地球は丸い」ということはわかっていたようです(でも地球が動いているかどうかは別)。

 

 

ここまで西洋のむかしの星空を見てきました。では東洋、特に極東に位置する日本ではどうでしょうか。

 

日本では江戸時代まで(つまり西暦19世紀半ばまで)は中国の星座が使用されていました。

中国では、星座は地上の政治と密接に関係があるとされました。天の北極付近にある星はほとんど動かないので、「帝(みかど)」とされ、その周りに宮廷の人々が配置されていると考えられてきました。天の北極から離れるに従い、宮廷から離れていき、最も離れた位置には庶民の生活に関係するものが星座になっていました。

そして、星空に異常が起こると、地上の政治に影響があると言われました。陰陽師といえば安倍晴明が有名ですが、陰陽師というのはむかしの天文学者です。陰陽師は、星空の異常を観察し、地上の災いを取り除くために奔走する(してないか?)官僚の占星術師、といったところでしょうか。

 

一方仏教では、古代インドの宇宙観を受け継いで「世界は平らで中心に須弥山(しゅみせん)という高い山がそそり立ち,周囲を九つの山と八つの海が囲んでいる」と考えていました。星も太陽や月などと同様に須弥山を中心に回転している、とされていました。

この須弥山宇宙観は星曼荼羅(ほしまんだら)などを通じて8世紀頃に日本に伝わっていましたが、江戸時代末期になって、もし西洋の地動説が広まったら仏教の権威が失われるかも、と当時の仏教界は恐れました。特に天台宗の僧・円通を中心にしたグループは、暦学を研究し、毎日の太陽/月/星の動きをからくり細工人に依頼して模型にしました。それが「須弥山儀(しゅみせんぎ)」で、いまも現存しているようです。そしてそれを掛軸に描いたり模型自体を持ち歩いたりして、全国の民衆にその教えを説いていました。

 

 

このように、東洋もまた、星の動きをどう捉えるのか様々な考え方を巡らせていたことがわかります。もしかすると、星空はギリシア神話の独占物、と思っていた人もいるかもしれませんが、特に日本人はけっこう最近まで、ギリシア神話とは別の星空を描いていたのです。

そのときはこれが世界/宇宙だと思っていても(時には説得や弾圧すらしてもされても)、あるときからがらりと変わってしまうことがあります。皆さんも、いま当たり前と思っていることも、いつ「当たり前」でなくなるときがくるかもしれない、ということを頭の片隅に置いておくとよいでしょう。

将来、研究をしていく人はもちろんですが、他の仕事をしていく人も、いま当たり前と思っていることは実は違うかもしれないという、常識を疑うことが、新たな道への一歩かもしれませんよ。もちろん、常識を疑うためには、その前にきっちり常識を知っておくことが大切です。頑張っていきましょう。

 

【引用・参考文献】

新湊博物館 企画展:天空展 -天空に親しみ、宇宙の謎に挑む-(2025年2月14日~2025年4月20日)

黄道って何? 赤道・白道との違いや季節・星座との関係を解説【親子でプチ科学】 | HugKum(はぐくむ)

黄道って何? 赤道・白道との違いや季節・星座との関係を解説【親子でプチ科学】

古代人の宇宙 – 地球惑星科学専攻

古代の宇宙観

インド人の宇宙観 – 須弥山の世界|Asakaho Luis Ryuta

シリーズ・龍谷の至宝 『須弥山儀』

この記事をシェア

  • facebook
  • twitter
  • instagram

\入力はカンタン30秒

フリーダイヤル® 0120-20-7733 受付時間:10:00~22:00(年中無休)