サンタクロースの仕事と聞くと、多くの人はこう思うのではないでしょうか。
年に一晩だけ働く。しかも夜の間だけ。夢のある仕事。
でも、もし本当にその仕事を私が引き受けるとしたら。
下請けとして、ほんの一部でも担当するとしたら。
話はまったく変わってきます。
私がサンタクロースの仕事を一部引き受けるとしたら。
人口密集地帯だけでもどうか。大阪の一部だけでいいから、手伝ってほしい。
そんな話をされたら、まずこう思います。
「これは、相当きつい仕事ではないっすか」と。
「もはや闇バイトレベルですよね」と。
サンタクロース本人に一番過酷な点を聞くと、
「準備や情報収集ももちろん大変だが、圧倒的にしんどいのは、12月24日の夜から朝にかけてだ」と言います。
多くの人は、夜の8時間くらいの間に、どこかでサンタが動いている。
そんな感覚を持っているかもしれません。
でも実態は違います。
サンタクロースは、日付変更線から仕事を始めます。
そこが夜になった瞬間からスタート。
人々が眠り始めるのを追いかけるように、西へ、西へと移動していく。
太陽に追いつかれないように。地球の自転と共に飛び回る。
つまり、地球を一周する形で、ほぼ24時間働き続けているのだと言います。
短い夜だけの仕事ではありません。
地球の回転に合わせた、年に一回の24時間単発労働です。
8時間労働 + 16時間深夜残業 のようです。
さらに過酷なのは、温度差です。
北半球の極寒。南半球の真夏。
赤道付近の蒸し暑さ。そして南極圏、北極圏。
数時間単位で、暑さと寒さを行き来する。
これは時差の問題ではなく、環境変化そのものが負荷になる仕事です。
正直に言って、人間の体にはかなり厳しい。
私がサンタクロースの仕事を下請けするとなってくると
色々仕事について考えてしまう事があります。
大阪や東京のような人口密集地帯になると、
話はさらにややこしくなります。
高層ビル。タワーマンション。オートロック。防犯カメラ。
配送するだけでも一苦労です。
もし自分が担当するなら、まずセキュリティをどうするのか、そこから考えなければなりません。
そもそも夜中に他人の家に入って、
枕元にプレゼントを置く。冷静に考えると、不法侵入です。
日本の法律に照らし合わせると、
かなりグレー。いや、ほぼアウトです。
その点をサンタクロース本人に伝えると、
「そこは問題ないと言われました」
「長年やっているが、捕まったことは一度もない」
「やり方はきちんと教える。そこは心配しなくていい」の一点張り。
「大事なのはただ一つ。子どもが望んでいるプレゼントを、
子どもが寝ている間に、確実に届けること。それ以外のことは気にするな」と。
ただ、現実的な問題は山ほどあります。
誰がどこに住んでいるのか。その子が何を欲しがっているのか。
名前を間違えていないか。プレゼントを取り違えていないか。10人兄弟姉妹とかいたらどうしようとか。
商品管理。
個人情報管理。
配送ミスのリスク。
一番やってはいけないのは、配り忘れです。
クリスマスは一日しかありません。
配り忘れて次に進んでしまったら、取り返しがつかない。
やはり、サンタの仕事はかなり高いスキルを要求される仕事です。
さらに問題なのは、労働条件です。
一晩にできる限界は、せいぜい夜10時から朝5時くらいまで。
約8時間。
では、その時給はいくらなのか。
聞いてみると、返ってきた答えは意外なものでした。
「金はもらっていない」
プレゼント代に上乗せして請求もしていない。
つまり、無償。
サンタクロースの仕事は、基本的にボランティアだそうです。
夢を与える仕事。国際的な任務。やりがい。
そう言われると聞こえはいいですが、
現代の労働問題として見ると、やりがい搾取という言葉が頭をよぎります。
それでもサンタクロースは言います。
それでもやる。断るという選択肢はないんだ。
だから、少しでも手伝ってもらえるなら助かるんだよ。
たとえ10件でもいいから頼む。
・・・・・・。
これは本当に引き受けていい仕事なのか?闇バイトの最新版ではないのか?
不法侵入で捕まるのではないかと不安が頭を過る。
かりに本当にこれがサンタの仕事だとしても正直かなりきつい。
一件でも失敗すれば、責任は重大。
このサンタとの会話で、これはファンタジーではなく、
かなり現実的な社会問題の縮図だと感じました。
サンタクロースは、年に一度しか働かない存在ではありません。
私たちの前に姿を現すのは一年に一度ですが、その裏では、長い準備と大きな責任、そして強い重圧を背負い続けています。
夢の裏側には、無理や我慢、そして目に見えない過酷な労働があります。
それは、決して語られることのない現実です。
世の中には、夢のような大金を稼げる仕事もあります。
プロ野球選手のように、多くの人から憧れられる仕事もあります。
世界で活躍できる仕事、歌手や俳優のように華やかな仕事もあります。
けれど、どんな仕事にも必ず「裏側」があります。
サンタクロースの仕事も同じで、子どもたちに夢を届けるその裏には、静かに積み重ねられた努力と責任が存在しています。
夢を見ることは、とても大切なことです。
同時に、その夢を支えている現実を知ることも、また大切なのだと思います。
世の中にはさまざまな仕事がありますが、
夢と現実のどちらか一方ではなく、その両方を抱えながら大切にできる仕事に就けることが、幸せなのかもしれません。
そして、夢を見る人も、現実を支える人も、
どちらも尊重される社会であってほしいと、心から思います。