日本の18歳はなぜ社会を信じられないのか。
十八歳意識調査から見える日本社会の限界
最近、十八歳意識調査という国際比較の資料を読みました。
インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツ、そして日本。
九つの国で、十七〜十九歳の若者に同じ質問を投げかけた調査です。
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2019/20191130-38555.html
質問の内容はとてもシンプルです。
1、自分を大人だと思うか。
2、責任のある社会の一員だと思うか。
3、将来の夢を持っているか。
4、自分で国や社会を変えられると思うか。
5、自分の国に解決したい社会課題があるか。
6、社会課題について家族や友人と積極的に話しているか。
結果は、とてもショッキングです。
日本は、この六つの質問すべてで九カ国中最下位だったそうです。
たとえば、自分を大人だと思う若者は、日本では約三割。インドでは八割を超えます。
自分を責任ある社会の一員だと感じているかという問いでは、日本は四割台、インドは九割を超える数字です。
自分で国や社会を変えられると思うかという問いでは、日本は二割に届かないのに、アメリカでは六割以上の若者がはいと答えています。
数字だけを見ると、日本の若者は社会に興味がない、意識が低いと叩きたくなるかもしれません。
けれど、生活している実感から言うと、これは若者だけの問題ではありません。
むしろ大人社会そのものの姿が、そのまま反映されていると感じます。
今の団塊ジュニアや、四十代、五十代。就職氷河期をくぐり抜けてきた世代。
社会の課題を語るより、自分の生活を守ることで精一杯だった時期が長く続きました。
政治の話をする場は少なく、ニュースを見ても明るい話題はほとんど出てこない。
少子高齢化、社会保障、税金、物価高。どのテーマをとっても、将来は厳しいという情報ばかりです。
そんな空気の中で育った子どもたちが、自分の国は良くなっていくと素直に思えるでしょうか。
調査では、自分の国は良くなると答えた日本の若者は一割にも届きませんでした。
中国の若者は、9割以上が中国は良くなると解答しました。
逆に言えば、ほとんどの子が、良くなるとは思えないか、分からないと感じているということです。
昔にさかのぼると、六十年代には学生運動がありました。
政府に対して声を上げ、社会を変えようとするエネルギーが、若者側にも、そしてある意味で大人側にもまだ残っていた時代です。
その後、日本は経済大国になり、ジャパンアズナンバーワンと騒がれ、豊かさを満喫する時期がありました。
けれど、バブルが崩壊してからは経済は長く停滞し、社会の課題は積み上がる一方です。
企業の利益や株価だけは過去最高を更新するのに、非正規雇用や低賃金で生活に余裕のない人は増えていく。
儲かっている人は儲かっている。でも、自分たちの暮らしは楽にならない。
このギャップを若者もよく見ています。さらに、詰め込み型の教育も続きます。
プログラミング教育、英語教育、情報教育、思考力、表現力。
子どもたちに背負わせているものはどんどん増えています。
けれど、その先に待っている社会はどうでしょうか。高い社会保険料、重い税負担、物価高。
家賃やローンに追われ、将来の保障も見えにくい。
その現実を目の前にしながら、夢を持て、やりたいことを見つけろと言われても、
心の中でブレーキがかかるし、分からないと答えるのが当然の解答だと思います。
九十年代から二〇〇〇年代にかけて、日本はエンターテインメントの力を全開にしてきました。
お笑い、バラエティ、ゲーム、アニメ。楽しいものは山ほどあります。
ただ、そのエンタテインメントが、社会の理不尽さを乗り越えるための笑いではなく、
現実を忘れるためのエンタテインメントになってしまっているところがあるのではないかと感じます。
政治や社会問題を真剣に考える時間より、何も考えずに笑っていられる時間の方が長くなってしまった。
その積み重ねの結果が、今なのかもしれません。
だからこそ、私はこの調査を、若者の意識の低さという話で終わらせるものではないと思います。
これは日本社会全体の鏡です。
大人が社会の課題を語らない。
自分たちで変えられると思っていない。
政治をあきらめている。
その背中を見て育てば、子どもたちが同じように感じるのは自然な流れです。
子供達の学力低下が問題だから、勉強だけをもっとさせよう。
英語も数学も理科も社会も、量を増やせばいい。
そういう発想では、この根っこの部分は変わらないのかもしれません。
そもそも、なぜ学ぶのか。
人はなぜ家族をつくるのか。
友達とは何か。
人と人が支え合って生きるとはどういうことか。
こうした根本的な問いを、大人も子どもも一緒に考える時間が、今の日本には足りていないように思います。
個別指導の小さな教室で仕事をしていますが、社会全体をいきなり変える力はありません。
ただ、この教室の中だけでも、子どもたちが少しだけ未来を信じられるようにしたい。
社会は厳しいけれど、それでも大人が踏ん張って、生徒や講師や保護者にほんの少しだけでも希望を共有できるような場所であったらと考えています。
この国の現実と向き合いながら、それでも一緒に考え続ける教室になれたら嬉しいです。
参考にしたデータ
日本財団 十八歳意識調査 二〇一九年実施の国際比較調査
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2019/20191130-38555.html