教室ブログ

2018.04.29

飛翔

 

こんにちは、Wam六十谷校の川口です。

 

外のハエが多くなってきました。

未だに生物の飛翔については謎が多いです。研究しやすいのは鳥類で、体の割に物凄いスピードで飛びますが、障害物に当たることは稀です。鳥類は網膜に血管系が形成されておらず、油球という細胞内小器官を持ち、光波長を選択できます。また、人が色を感じるために持っている視物質より多くのそれを持ち、紫外線も視ることができます。そして、衝突の約1秒前に活動するニューロンが存在しており、体内時計を使って障害物の見かけの大きさを微分し、ぶつかるまでの時間を求めているようです。このようにして計算された衝突までの時間は物体の大きさや距離に関係なく決定できるので、自分を取り囲む環境における光線の幾何学的性質だけから導出できます。鳥の見ている世界はわたしたちの世界より物理現象を鮮やかに捉えることができているようで羨ましいです。

 

 

昆虫類の羽を使った飛翔については、従来の流体力学の理論では定常流を解析することによって説明してきました。しかし、これらによって計算された揚力では、自重を支えられず墜ちてしまいます。この揚力の発生は羽の前翅に現われる強い前縁渦と呼ばれる空気の流れにあることが分かってきました。この前縁渦は羽面上に大きな負圧領域をもたらし定常理論値の2倍以上の揚力を発生させています。流れの状態の指標では慣性力と粘性力との比を表したレイノルズ数を使うことが多いですが、これに置き換えると航空機はレイノルズ数が10^5以上となりますが,昆虫は10^3程度です。小さな物体ほど強い粘性力がはたらくため、その圧力を低減するため昆虫の翅には100µm 程度の微細な突起が存在しています。一見理解しがたい現象に目に見えないミクロな因子が影響していることは生物にも無機物にも多いと感じます。

 

 

また驚くべきことに、ハエは通常1秒間に約200回羽ばたきをしていますが、危険が迫った場合はこの羽ばたきを1回で行い、方向転換して飛び去ることができます。このおよそ4ミリ秒に1回はばたきをすることは神経細胞の発火スピードを大きく上回る速さであり、はばたきを18回行なう間に、体の向きを120度回転させることができます。ハエが急速な方向転換を行なうときには、一方の翅が他方より傾いており、これはボートを方向転換させるときに一方のオールを他方より強く引くやり方と似ています。ハエの場合は、翅の傾斜角度にわずかな差をつけるだけで、方向転換を行なうことが可能です。研究者はこれらの昆虫は空中を泳いでいるのに等しく、牽引力を使ってどこでも好きな方向へ漕ぎ進んでいるといいます。これらの研究は小型の飛翔ロボットなどに応用が可能なようです。

 

 

実験だけでは物理的に難しいため、これらの空気力学の解析に流体シミュレーションが使われています。CG流体シミュレーションのルーツは、CFD(数値流体力学)とよばれる学術分野であり、これはナビエとストークスによって導かれたナビエ・ストークス方程式を解くことで、視覚化できます。その研究成果は、気象学・海洋学・航空工学などの分野で応用されています。やがてナビエ・ストークス方程式を解くプロセスを複数の段階に分け、そのなかで最も解が発散しやすいプロセスに対して曖昧さを持つ乱数幅を用いた概念を導入しました。これは、乱流のような極端に動きの変化が激しいケースを除き、人間の視覚にはリアルに映ります。近年はナビエ・ストークス方程式を解かずとも、境界面からの符号付の距離を値とする連続した関数を設定し、それを用いて境界面付近の流体の細かい動きを解析して、計算負荷が軽い手法で液体表現などを行っています。

 

 

ナビエストークス方程式自体もよく利用されているにも関わらず理論的にあまり理解されておらず、乱流の振る舞いを記述する理論上のモデルを構築することは可能かという問題と合わせて未解決問題とされています。身近でありながら分かっていない問題をふとした瞬間に考えるのは不毛だと知りながらも楽しいものです。分かっている事柄を証明してみて、長期記憶化したり、別の関係性を見抜くのに使えることは多いと思います。連休で学校や仕事が休みの時には普段見ることができない自然現象に目を向けて、考えてみたいものです。

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