教室ブログ

2019.06.06

早坂暁について、少々

先日、第7回 市川森一脚本賞授賞式が、NHK千代田放送会館で行われ、授賞式を見学して来ました。脚本だけに賞を与えるのはこの市川森一脚本賞と向田邦子賞だけです。脚本のみに賞を与えるというのは何にもおいて脚本がドラマ・映画の生命線だという考え方です。「いい脚本からダメな映画が出来る事はあるが、ダメな脚本から傑作は生まれない」といったのは映画監督の伊丹万作です。それくらい脚本は作品の成否を決定的に左右するものなのです。

今回の受賞者は「アンナチュラル」という石原さとみ主演のテレビドラマの脚本を書いた野木亜紀子が受賞しました。因みに彼女は「獣になれない私たち」という新垣結衣主演のテレビドラマで今年の向田邦子賞を受賞しており、脚本賞のダブル受賞という事になります。(市川森一、向田邦子の両脚本家について話すのはまた別の機会にさせてもらいます)

 

市川森一脚本賞授賞式に先立ち「早坂暁 人、その存在やいかに」という脚本家・早坂暁の作品上映会と彼の作品に関わった人達によるシンポジウムがありました。

上映されたのは「天下御免」「冬の桃」「続 夢千代日記」「花へんろ~風の昭和日記~」(以上NHK)、「猫坂の上の幽霊たち」(TBS)、シンポジウムの出席者は俳優の山口崇、女優の秋吉久美子、元NHK演出家の岡崎栄、平山武之、放送評論家の鈴木嘉一でした。

早坂暁は自身が関わった戦争体験や妹を原爆で失った体験などから、戦争の影を落とす作品が多くあります。「冬の桃」「夢千代日記」「花へんろ」が今回の上映作品ではそれにあたります。しかし、声高に反戦を訴えたり、戦闘シーンが出て来たり、作品全体の雰囲気を暗く表現したりはしません。「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇である」というチャップリンの言葉通り、登場人物たちは実にユーモラスです。どんな人物も愛すべき人物として描かれています。悪人なのに悪人には思えないのです。

遅筆で撮影当日になっても脚本が出来ていないとか、逗留先のホテルから脱走してしまったとか、早坂ではなく遅坂だ等、シンポジウムではそんなエピソードが語られていました。脚本が上がって来ないで殺したいと思う事が度々あったらしいですが、出来た脚本を読むとそんな事を考えていたことが吹き飛ぶくらい素晴らしい本が上がって来るから始末が悪い、とこれもシンポジウムでの話でした。早坂作品の登場人物同様、彼もまた愛される人物だったのです。そういえば、市川森一も向田邦子も遅筆で有名だったと記憶しています。

年号が令和に変わり、昭和は更に遠くに行ってしまいましたが、昭和という時代を描いた脚本家の名作ドラマ世界を堪能してみて下さい。過去を描いて現代を照射する早坂作品。傑作ドラマというのは、同時代だけで色褪せたりはしません。普遍性があります。だからいつ見ても古いとは思わないですし、見るたびに新しい発見があります。

「昭和とはどんな眺めぞ 花へんろ」

 

追記)市川森一(脚本家1941~2011)、向田邦子(脚本家1929~1981)、早坂暁(脚本家1929~2017)、野木亜紀子(脚本家1974~)

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