教室ブログ

2018.07.30

新刊(続)

こんばんは。Wam六十谷校の川口です。

前回の、数学ガール新刊ポアンカレ予想の続きです。

 群へと話を進める後半になります。
 図形について形を変えない操作全体を群で表せることを述べていきます。一般にこれを二面体群といい、回転する、裏返すなど幾何的な言い回しも群で代数的に表現できます。図形として描けなくても群を使って表現できるのは見えない空間を扱う妙です。
 二つの多角形があったとして、頂点の数が異なっていたら同じ多角形とはいえません。二つの位相空間があったとして、同相写像で普遍な群を調べて、同型でなければ位相空間は同相といえません。そのため、群が位相空間を識別する武器になります。作中のミルカの「形があるものは撫でれば形を探ることができる。わたしたちは位相空間の形を知りたい」という言葉は位相空間を求める彼女の強い気持ちをよく表しています。
 基本群を使うと位相空間を撫でることができます。基本群を構成するには位相空間の中にループを作ります。ループは位相空間の中の曲線であり、連続的に変形してできるループは同じものとして扱います。ループを連続的に変形するというのは、連続写像を連続的に変形することです。基点を固定して考え、変形して一致させられる連続写像をホモトピーと呼び、連続的に変形して同一視できるループを一つにまとめたものが基本群の要素です。この集合をホモトピー類といい、トーラス上のホモトピー類は無数にあります。ループをつなぐ操作を群の演算とすることで単純化して表現できるので便利です。
 例えば、一次元球面の基本群は整数の加法群に同型。2次元球面の基本群は単位群に同型。3次元球面の基本群も単位群ですが、基本群で形を区別できません。ここでポアンカレ予想に戻ります。
【ポアンカレ予想】
Mを3次元の閉多様体とする。
Mの基本群が単位群に同型ならば、Mは3次元球面に同相である。

ポアンカレ予想は何をしたいのかが見えてきます。それは基本群の能力を知ることです。位相空間が同相かどうかを調べる判定手段として基本群が使えるので、これは位相幾何学の問題であると同時に代数学の問題であるといえます。
ここで少し小休止を挟みます。

代数的な視点からの閑話で、微分方程式の目的についてです。
微分方程式が何のためにあるか、尋ねられた主人公は、それは方程式が何のためにあるかと同じだと答えます。xを求めたい。f(x)を求めたい。それが単純な理由です。考えてみると、関数を手に入れるということはすごいことです。xを動かすことでf(x)の変化を調べたり、xを大きくして漸近的な性質を調べたり。関数を求める気持ちは、未来の予言を求める気持ちと等しく、人が追い求める真理です。未来を予め知る、これは未来のすべてを言い当てるという意味ではなく、例えば時刻の関数として物理量が表されれば未来の物理量が分かり、星の位置など、近い、遠い未来が分かるという小さなことです。しかし、演算量を増やせば予測できることは増えていきます。
 作中では代表的なニュートンの運動方程式を挙げています。質量mの質点にFという力が掛かっているとき質点の加速度をαとするとF=mα。Fを時刻tの関数と考えると加速度α(t)はx”(t)と表せます。tが変化しても質量mが一定で変わらないとすると
F(t)=mx”(t) と書き換えられます。
バネを伸縮させた場合に伸びた向きとは逆向きに伸びた長さに比例した大きさの力が働くので、
重りの位置x(t)とすると
F(t)=-Kx(t) これはフックの法則です
比例定数K>0はバネ定数で、
2つを連立方程式してF(t)を消すと
x”(t)=-Kx(t)/m
K/mをωとすると
x”(t)=-ω^2x(t) となり、これはバネの振動の微分方程式です。
x(t)=sinωtと置けば x”(t)=-ω^2sinωtなので微分方程式を満たしています。
一般的に
x(t)=Asinωt+Bcosωt
これは微分方程式の一般解になります。
ωは質量mとバネ定数Kで決まるから定数A,Bは時刻0における重りの位置と速度で決まります。重りの振動を円運動の影だと考えたとき一定時間に同じ角度だけ進む円運動となり、その角速度がちょうどωになります。数式を変形してもきちんと意味があるのが不思議で、数式という《生きた言葉》が意味を作り出している事実が式変形を通して見えてきます。
 作中では、もう一つ温度変化の速度は温度差に比例するというニュートンの冷却法則と、放射性物質の崩壊速度は、残存量に比例するという二つの例を挙げて、これらも物理現象としてはまったく異なりますが、物理量が満たす微分方程式の形は同じで解となる関数も同じになることを示しています。放射性物質には半減期があるので、温度変化についても半減期に似た概念を考えることができるかもしれないとあったので自分でも考えてみたいと気持ちを掻き立てられました。

再び幾何的な話に戻るのですが、簡単なクイズのような問題から繋いでいきます。
半径Rの球面上で球面三角形ABCを考える。角の大きさが、
∠A=∠B=∠C=π/2
であるとき球面三角形の面積△ABCを求めよ
というものです。
半径Rの球の表面積は4πR^2であり、△ABCは球の表面積の1/8にあたるので、求める面積△ABC=(πR^2)/2

答えは出たのですが、出題者から球面三角形の面積は R^2(∠A+∠B+∠C-π)で求められるという事実を聞いた主人公は、その証明を考えます。
△ABCを一定に保ちながらR→∞という極限を考えると∠A+∠B+∠C=π これは三角形の内角の和に等しくなります。三角形の内角の和の公式の球面バージョンだといえそうです。証明には、α,β,γの3つの角を持つルーン(三日月)を用いました。2個ずつで球面全体を覆うことができ、そのとき△ABCの4個分に相当するだぶりがある。このことから、4πR^2=2Sα+2Sβ+2Sγー4△ABCが成り立つというものです。Sα=2αR^2、Sβ=2βR^2、Sγ=2γR^2から△ABC=R^2(α+β+γーπ)を得られます。
これにミルカのアドバイスが入るのですが、もし、三角形の内角の和が180度に等しいことを拡張していることに気付いているなら
K=(α+β+γーπ)/△ABCという定数Kを考えた方が楽しいとの指摘があります。この視点では測地線を使った三角形をどのような幾何学で考えているかがわかります。
K>0のとき、球面幾何学
K=0のとき、ユークリッド幾何学
K<0のとき、双曲幾何学
と、Kという定数で幾何学の分類ができます。一瞬で世界が拡がりました。Kはユークリッド幾何学からのずれを表しているともいえるし、その空間の曲がり具合を表しているともいえ、ガウス曲率と呼ばれる量に等しくなります。
 虚数単位iが半径の球面幾何学が双曲幾何学であり、リーマンは曲面におけるガウス曲率を一般化し、n次元空間における曲率を考えました。さまざまな一般化ができます。ガウス曲率Kが定数であるという条件は等質性と呼ばれていてガウス曲率が空間内の位置に依存しないという意味になるようです。等質性の前提をなくして一般化するとガウス曲率Kが空間の点pに依存するということになり、ガウス曲率K(p)は関数になります。そのとき、△ABCの面積を求める式は積でなく積分になり、ボンネによる拡張を加えて、ガウス・ボンネの定理と呼ばれます(α+β+γーπ=∬△ABC(↓)K(p)dS)
向きによって曲がり具合が変わらないという前提を等方性といい、高次元の空間では等方性の前提を取り除いて一般化した曲率を考えるようです。ある点pにおける曲がり具合を曲率テンソルとして考えるとさらに深く研究ができます。

最後に入試問題の定積分をラプラス積分で考える視点が紹介されていて、x2のフーリエ展開からバーゼル問題の答えζ(2)を出すことができる美しい導出も書かれています(以下)

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パラメータを持つ定積分
I(a,b)=∫πーπ (a+bcosx-x^2)dx
を考える。I(a,b)の最小値と、そのときのa,bの値を求めよ

正規分布の確率密度関数
平均がμで標準偏差がσである正規分布の確率密度関数f(x)は
f(x)=1/√2πσ^2 × exp(-(x-μ)^2/2σ^2)
である。
x-μに着目して文字に√2σ^2などもa,bに置き換えると
f(x)=a・exp-b^2
グラフはx=μを対称軸としてx軸が漸近線
パラメータ付きの定積分だと有名なものではラプラス積分がある。
aを実数とするとき、
∫∞0 e-x^2cos2axdx=I(0)e-a^2=√π/2・e-a^2

sinxのテイラー展開(マクローリン展開)
sinx=+x/1!-x3/3!-x5/5!-x7/7!+・・・
f(x)のマクローリン展開
f(x)=f(0)/0!・x0+f’(0)/1!・x1+f”(0)/2!・x2+・・・
  =Σk=0∞ ckxk
フーリエ展開ではf(x)を三角関数の級数で表す
f(x)=(a0cos0x+b0sin0x)+(a1cos1x+b1sin1x)+(a2cos2x+b2sin2x)
  =Σk=0∞(akcoskx+bksinkx)

テイラー展開は微分、フーリエ展開は積分を使う
x2のフーリエ展開からバーゼル問題の答えζ(2)を出すことができる。

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ポアンカレ予想は
Mを3次元の閉多様体とする。
Mの基本群が単位群に同型ならば、Mは3次元球面に同相である。
というものですが、

言い換えると、

3次元多様体Mに関する条件P(M)とQ(M)を
P(M)=《Mの基本群は単位群に同型である》
Q(M)=《Mは3次元球面に同相である》
とする。このとき3次元閉多様体Mに対して、P(M)⇒Q(M)
が成り立つ。
と考えることができます。
他の定理や公式などもそうですが、式の一面だけを見て理解した気になるのではなく、透徹した深遠な一般性を閃く楽しさが数学にはあるのではないでしょうか。夏は読書感想文などで読書をする機会が多くなります。本との出会いが自らを変える一端になればと思います。

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